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むふーと、鼻で荒い息を吐き出して憤然と仁王立ちする俺の宣言に、白人二人はもちろん同じアジア系のフェイまで呆気にとられたみたいだった。
特に、俺がコンプレックスであるベイビーフェイスを思い切り馬鹿にされたから怒り心頭になってるなんて思いも寄らないグロウは、迫力に圧されて間の抜けた顔すらしていた。
そのために降りた妙な沈黙だったけど、それを破ったのはグロウでも俺でもなく、
ことの顛末を傍らで見ていた――ジェイさんだった。
「――っは」
堪えきれなくなったような短い吐息が皮切りだった。
「あっははははははっっ」
そしてそれが止まらなくなったらしい。
そのままお腹を抱えて笑い出す。
「お、おい、ジェイ……?」
そんな彼に、グロウが声をかける。
今度はジェイの方に呆気にとられた――というか別の感情がこみ上げたらしく少し青ざめてすらいた。
けれどジェイさんの笑いの衝動はなかなか引かず、彼はしばらく一人で笑った後、肩を震わせながら言った。
「お前達、面白すぎる! 老け顔人種って……ははっ」
「いや、俺は、心底恐ろしいものを見ている気分だよ。そんなに笑ったお前の姿見たの生まれて初めてだぞ」
「そうか? ……ふっ」
「笑う筋肉すら死滅しているのかと思ってたぜ」
「それはないな。笑うのに使う筋肉は租借をしたりするのにも使うから死滅したら彼が生きていけない」
「いやいやいや、医者のおっさんもわけのわからないところで真顔でフレームインしてくんなよ」
「……あ~笑った」
そう言ってジェイさんは眼鏡をずらして目尻を拭うと、折り曲げていた腰を起こした。
「老け顔人種でごめんね? アレク」
言いながら、俺の方に視線を当ててくる。
どうやら相当『老け顔人種』という表現が気に入ったらしい。
ぽん、とグロウの怪我をしていない方の肩を叩くと、未だに目尻に笑いの余韻を残したまま言う。
「その代わりこいつは脳内がベイビーだから許してやってくれ」
「て、そのフォロー俺に対してひどいだろ」
「どこがだ。事実を言っているのにひどいもくそもない」
「まあ、それなら、仕方ないかな」
「や、お前も同意すんな。ジャパニーズ」
「そういう呼び方止めてくれる?」
俺は再びむっとなってグロウを見上げた。
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