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その頃の俺はとにかく親父が嫌いだったから。
怒っていたさっきならともかく、冷静な状態で日本人と指摘されるのがすごいイヤだったのだ。
「俺の名前はアレク。いくらベイビーサイズの脳みそでも名前くらいは覚えられるで
しょ」
「ん……アレクか」
俺は半ばかみつくように言ったんだけどグロウは反芻するみたいに呟いてからニカッと笑った。
「俺はグロウだ。グロウ・マラス」
そうして怪我をしていない方の手を差し出してくる。
不思議に思ってそれを俺が見下ろすと、グロウはにぎにぎと指を動かした。
「こうきたら、よろしくの握手だろ?」
屈託のない表現に俺は少し気恥ずかしくなって口を噤んだ。
それから、助けを求めるようにジェイさんを見上げると、彼は肩をすくめてはいたけど小さく笑っていた。
だから俺はおずおずと左手を差し出す。
「……よろしく」
するとそれをグロウの大きな手がかっさらって、ぎゅむ、と握った。
「おう!」
「て、痛い! 握りすぎだよ筋肉馬鹿!」
ぎゅうう、と、潰されるくらい握りしめられたので思わず俺が声を上げると、横でまたジェイさんが口元を押さえるのが見えた。
まだ笑いの衝動は引いていないらしい。
なんだかなあ、もう。
とは思ったけれど、なんとなくこの二人の暖かい感じに俺もつられて、口の端を持ち上げて、笑った。
――これが、俺とグロウの出会いの瞬間。
こんな、出会い頭の喧嘩から、俺達の関係は始まったんだ。
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