2)災害が忘れた頃にやってきた

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 1  袖振り合うも多生の縁――ということわざが日本にあるけど、俺がその、ものすごいとしか言いようのない袖と振り合ってしまってから一週間経った。  袖で表すなら、若草色を基調とし、繊細な図案を上品な染めと刺繍とで縫い上げつつも、間違って墨汁でもこぼしてしまったみたいにダークな気配のある一枚と。  鮮やかすぎるくらいの朱色に金銀とりどりの糸を使って、大振りな絵柄をこれまた大ざっぱに縫ったような一枚ーーとは一見全く合わなそうに見える。  着物の組み合わせとしてこんな二枚を合わせた人がいたら間違いなく奇異な目で見られるだろう。  というか俺なら間違いなくセンスを疑うどころか『極楽鳥』のレッテルを貼って徹底的に距離をとるね。うん。  ところが不思議なもので、当の本人達はとても気が合うらしかった。  傷を負っているわりに元気いっぱいの朱色を若草色が畳み込んで凹ませるシーンはよく見られたけど、本気で立ち直れないところまでは叩かないし、どちらかというと若草色の方が朱色の元気さをはかるために仕掛けているようなところもあったりして。  仲がいいんだなあと、はたから観察してしみじみと思ってしまった。じゃあその二人に対しての俺の立ち位置はどんなところかというと、希望は『傍観者』だった。  だって基本的に家出ばっかりしてる俺だからフェイの家は二人が来る前からの根城だし、二人がいるところに転がりこんだからって仲良くするのは別の話じゃない?  だからちょっと距離をとって、俺は俺のペースを守って生活していたかったし。  二人がぎゃいぎゃいなんか言い合ってても―といっても一方的に朱色の方がぎゃいのぎゃいの騒いでいただけなんだけど―本を読んだりして我関せずを貫いていたかったわけさ。    特に、父親の熱血がいやで逃げ出すくらい暑っ苦しいのが苦手な俺にとって、意味なく暑苦しいを通り越してむさ苦しい朱色とはお近づきになりたくなかったからね。  だから徹底的に距離を置こうと頑張っていた――んだけど。  なんでかうまくはいかなかったんだな。
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