プロローグ:本当に友達なんだろうかとか思ったり

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 SKID ROW――  ロサンゼルスのダウンタウンにあるスラムの街。  どうしても生きづらい世間からドロップアウトした大人達や暴力を振るうどうしようもない親から逃げてきた子供達が集う場所。  その一角に、まるで似つかわしくない音楽が流れていた。  ラジオから流れる、ギターの音に載せて透き通った声の女性が歌う、アメイジング・グレース。  神の恵みを讃えた賛美歌。  軽く目を閉じその旋律に耳を傾けていた俺は、けれど突然の乱入者に邪魔をされることになる。 「おーっす、アレク!」  底抜けに明るく、なおかつとてもライトな声が美しい旋律を邪魔をする。 「て、おい、アレク?」  なるべくこの闖入者を相手にしたくなくて、俺はそのまま寝たふりを決め込むことにした。  ふに!  ふに!  すると、俺の鼻と、そして念入りに口までその闖入者は摘む。 「…………」  それでも俺はがんとして寝たふりを続けた。  こういう時のこいつにつき合うと、悪しき事例となって次もまたやられるから。  悪しき事例としないために俺は必死に我慢をする。 「…………」  我慢。    我慢だ。  がま………… 「………………………………………………………っっっは!」  俺は絶えきれなくなり、その手をはねのけながらソファから身体を起こした。 「な、なにすんのさ! グロウ!」  呼吸を取り戻し、ぜいぜいと息をつきながら俺が睨むと、払われた手を空中でそのままにしていたグロウがきょとんとした顔で俺を見下ろしていた。  けれどすぐに、ニカッと笑い、身体をかがめてくる。 「よ~。起きたな」 「起きたな、じゃないよ! 死ぬかと思ったじゃんか!」 「死なない死なない。俺とか五分は余裕で水中潜れるぜ」 「化け物と一緒にしないでよ! 俺グロウみたいに体力馬鹿じゃないんだから!」  俺ががなると、俺の鼻を摘んでくれたその男は、不思議そうに腕を組み、首を傾げる。
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