2)災害が忘れた頃にやってきた

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 ジェイさんの呼びかけに顔を上げたフェイは、少しずれためがねを押し上げると面倒くさそうに答えた。 「癌細胞以外の細胞の不死化についてのできるできないの議論なら聞かない。そんなこと、波動方程式でも解いた上で人類がたどり着けないと証明した上で私のところにやってくるんだな」 「いや、その話は一端いいんだ」  ジェイさんが言うと、フェイはマウスを手にしたまま不思議そうな顔で振り返り、部屋の入り口に立つ少年を見上げた。 「君がさっきまであれだけ食いついてきていた内容だぞ? いや、だとしても、それ以外に君と私が何を話すことがあると?」 「……ないのか、あんたの中で」    少しがっかりしたように呟いて、けれど気を取り直したジェイさんは「アレクのことだよ」と告げた。    すると、フェイはまるっきり興味をなくしたように再びマウスに向き直ってしまった。 「アレクがどうしたかね」  返った低い声に、ジェイさんは少しひるむ。  でも、気を取り直して問い続けた。 「今、友達という人が来て、彼を連れて行った。どうも尋常な感じじゃなかった。何があったか知ってるか?」 「友達とは?」 「ぼさぼさの金髪に、妙に目の泳いだやつだった」 「それならフレッドだろう」  言って、フェイはマウスをゲージの中に戻した。  くるりといすを回して再びジェイさんの方に向き直ると、机に肘をつく。 「アレクが入り浸っているチームの下っ端さ。まあ、そろそろ連れに来る頃だろうとは思っていたがね」 「どういうことだ?」 「これは、私の推測だが、君たちが来る前はフレッドがよくアレクを連れ回していたから、一週間もアレクがチームに来なかったことをフレッドが怒られたんだろう。それで連れに来たのさ」 「そんな、仲良しを連れに来た、みたいな雰囲気じゃなかったぞ」 「何を馬鹿なことを言ってるんだ」  そう言うと、フェイは高く声を上げて笑った。  目の前の少年を、心底物珍しいものでも見るような眼差しで見つめる。
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