2)災害が忘れた頃にやってきた

7/34

62人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
「ここをどこだと思ってる? スラムだ。世間からはき出されたはみ出しものの集まる街。そこのチームが、仲良しサッカーチームのようなものだと思っているなら、その脳みそを一端頭蓋骨から取り出して徹底的に泥に浸すことをお勧めするよ、私は」 「どういう意味だ」  なまじ普段、周囲からその頭脳を褒められることの多いジェイさんは、面とむかってその頭脳をけなされてむっとなり、顔をしかめた。    フェイはそんな彼になおさら面白そうな顔を向けて続けた。 「人間が人間としての尊厳を保てるのなんてね、ある程度の衣食住が保証されて初めて叶うんだよ、坊や。親に見捨てられた子供達が集まって生き延びるためにすることと言ったら盗むことくらいだろう」  フェイの言葉に、ジェイさんは大きく目を見開いた。  言葉をなくして、フェイの顔を見返す。 「あのフレッドは手先が器用でね。よく他人の懐のものをちょろまかしたり、店のものをくすねたりしてる。チームの重要な資金稼ぎとして、そういう存在は必要なんだ。そして一人でも多い方がいい」  ここまで言えばわかるだろう?  と言わんばかりに挑戦的な眼差しで見上げてくる一対の漆黒の眼差しを、ジェイさんは忌々しげににらみ返しながら、唇を噛んだ。  それまで自分がどんな場所にいるのか正確に理解していなかった甘さを突きつけられて悔しい反面、まだその頃の彼にはフェイを言い負かすほどの経験も知識もなかったから。  ただ、口をつぐんでその悔しさに耐えるしかなかったのだ。 「アレクも君と同類だよ。親の元でぬくぬくと甘えて育って、少し親が気に入らないと言うだけで飛び出したような子供を、スラムの子供達が受け入れると思うかね?」 「……もしかしたら、友情が芽生えることもーー」 「ないね。あるわけがない。お互いの育った境遇の差というのは人間同士の間にマリアナ海溝より深い溝を作り上げるんだ。それがそんなに簡単に乗り越えられるなら、この世界に差別はないし戦争もない。君も愚かな子供じゃあないんだ、そろそろわかるだろう?」
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加