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少しでも頭の回る人間を、論理でもってこてんぱんに叩き潰すことを至上の楽しみとしている性格のひねくれたフェイは、ジェイさんが完全に言い負かされて黙り込んだのに調子を上げ、それにね、と言って、いっそうトーンアップした声で続けた。
「君達がアレクの不始末を心配する義理なんてのもなければ、あの子に恩を感じる必要もない。むしろあの子が君に撃ち殺されてもおかしくない立場だったんだからね」
そう言うと、フェイは指で銃の形を作り、ばん、と撃つ真似をする。
「君達とあの子がぶつかったのは事故ではなく故意だ。そしてあの子はフレッドに言われたとはいえ君達から財布を盗もうとしていた。そんな子供が自分の浅はかさを理由に窮地に陥ったとして、助けに行く方が愚かだとーー」
私は思うがね。
そう告げようとして、フェイは唇ではその言葉を綴っていた。
けれどその言葉がジェイさんの元まで届くことはなかった。
別の人間の雄叫びでかき消されたからだ。
「――うるせえ!」
声を上げたのは、隣の病室に寝ていたはずの赤い熱血馬鹿だった。
「だからどうしたってんだ! アレクは結果的に俺を助けてくれたし、その後だって親切にしてくれた!」
そう告げて、突然の乱入者は荒い足取りで二人の間に入り込んでくる。
「最初がどうかなんて、どうだっていいんだよ!」
だろ!?
そう言って乱入者のグロウが振り向くと、視線を受けたジェイさんは唖然とした顔をしたまま凍り付き、返事をすることを忘れていた。
いや、それよりも別のことに気を取られ、グロウの姿に見入っていたと言うべきか。
なぜなら本来、患者と一緒に移動させられるべき点滴ポールは無様に引きずられて床を這い、腕から伸びたチューブは今にもちぎれそうだったからだ。
「お、おい。お前大丈夫か?」
腕に刺した針から血が逆流してすらいる状態に思わずジェイさんが問いかけると、けれど血が上った本人はうるせえ、と繰り返し、チューブを鞭のようにしならせながら、腕を大きく振った。
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