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「センキューな!」
その紙を奪い取るように受け取って駆けだしていくグロウを、慌てて追おうジェイさんは、ふと何かに引かれたように振り返ってフェイを見た。
「……突然協力的になって不思議そうだね」
その思考を読んだようにフェイが言うので、ジェイさんは口を噤んで黙り込んだ。
「別に他意はないよ。それよりほら、オトモダチが呼んでるぞ」
その言葉通り、ジェイさんの耳には「ジェイ! 何してんだ!」という、焦れたようなグロウの声が届いていた。
けれど納得しきれないのか、足を踏み出すこともできずに立ち尽くすジェイさんに、フェイはため息をついて肩をすくめた。
「……単に、君達は知っておくべきだと思っただけだ」
きわめて不本意だ、と言うように、本音を吐露する嫌悪に顔をしかめながらもフェイは続けた。
「私のように、アレクのように、望んでスラムにきたわけじゃない、だがおそらくはもう、光の下を歩む人生など二度と望めないだろう君達はね。現実を」
「……俺達の、何を知ってる?」
「何も」
表情を険しくしたジェイさんに、フェイは首を横に振った。
「何も知らないさ。でも、こういうところで医者なんてやっていれば自然にいろいろ見えてくるようになるんだよ。銃の傷なんてこの国じゃ珍しいものじゃないが、近くの医師に診せずにわざわざスラムにまで流れてきた上に、君達はこの家から一歩も出ようとしない」
――そのくらい符号がそろえば誰かに狙われているんだってことくらいわかる。
フェイの指摘に、ジェイさんはぴくり、と肩をふるわせた。
その歳にしてはあからさまに表情に出さなかっただけましか、と思いながらフェイは続ける。
「だが君達はその相手の正体を知らないようだな。だからこそ警戒をしつつものんきに暮らしていられる。友人を助けに行くなんてこともできるーーせいぜいつかの間の自由を、謳歌するんだね」
「……言われなくてもそうするさ」
告げて、ジェイさんは身を翻すと、友人の後を追おうとする。
その背に、フェイからの最後の言葉がかかった。
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