プロローグ:本当に友達なんだろうかとか思ったり

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 鮮やかな朱色の髪と瞳を持ち、つり目がちだけどどこか子供のような無邪気さを漂わせるこの男はグロウ・マルディーニという。  いつもタンクトップにミリタリーパンツというラフな格好で、万力で占めてもびくとも死なさそうなごついブーツを履いてどかどか歩いている。  性格はがさつで面倒くさがりで難しいことは即座に思考を放棄するし、面白そうなことを見つけたらすぐ突っ走る。  基本的に相手や巻き込まれる人間のことは考えない。  つまり相手をするこっちは非常に面倒くさい。  今だって俺がラジオのクラシックチャンネルを聞いて――アメイジング・グレースはクラシックじゃないけど――優雅な午後を過ごしてたって言うのに、かまわず邪魔してくるし。  時々、なんで友達やってるんだろうと真剣に思う時がある。  神経質といわれる日本人に連なる日系の俺としては、多分ラテンのグロウのノリは、時々本気でイライラするんだよね。  でも、その反面で面倒見がいいし優しいし、妙に人情に厚いところがあって弱い人や困っている人を放っておけないようなところがあるから人望がある。  俺も……まあ、そういうところが嫌いじゃない。  そんなこんなで結構長いつき合いになるけど―――  今はとにかく俺はクラシックチャンネルを聞きたいの! 「なんの用? 今日は特にミッションもないし、だらだら過ごしてても問題ないはずだよ」 「だらだら?」 「そう、だらだら」 「まあ、そうか。確かにこの変な曲眠くなりそうだよな」  俺は、そういって納得げに頷いているグロウを見上げた。  本気で言ってるんだろうか? 「ねえ、まさかグロウ、この曲知らないとか、言わないよね?」 「知らない」  けろりん、と言ってグロウは不思議そうな顔をしている。  いやいやいや、不思議そうなのは俺の方なんですけど。 「アメイジング・グレースって、超名曲だよ? ……嘘でしょ?」 「なんだその『あめーよ・グレース』って」  呟いてから、グロウははっとなって俺の方を見た。 「おお! こんな曲調なのに喧嘩の歌か!」  その言葉に俺はソファに深く沈み込んだ。  そんなわけがあるか!
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