2)災害が忘れた頃にやってきた

13/34

62人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
「ほら、来い」  フレッドが言って、足が止まりそうになる俺の腕をさらに強引に引いた。  また転びそうになり、俺は思わずフレッドを見上げた。  目があったフレッドが、青い目をしかめる。  なんだろう?  再び感じた違和感に内心首をかしげる。  でも、その時の俺には、結局その違和感の原因はよくわからないままだった。  ――そう思うと、やはり子供だったと苦笑せざるを得ない。  これも、今ならば、わかることなのだけれど、一見俺を、受け入れてくれていたように思えたスラムの子供達にとって、本当は外に両親もいて比較的恵まれた生活を送る俺は、フェイが言うようにねたみやそねみの対象以外のなにものでもなかったんだ。  ジョンがたまたま俺のことを気に入ってくれたから、組織の一員としてそれに準じることを彼らは選んだだけ。  でも、その後ろ盾がなくなろうとしていたから、不満が表に表出してきた。  そしてもう一つ。  俺がアジア人であることも災いしていた。  そしてフェイの家に入り浸っていたことも、親がいやであえて自分の属性をあえて明言していなかったことも、また。  歴史的なことを言えば1992年――俺が生まれたばかりの頃に起きたロス暴動以来、韓国人と黒人のコミュニティの間は決して円満とは言い難い状態になっていて、デザート・ウルフは黒人ばかりの集まりじゃないけど、でもやっぱり貧困層には黒人は多いからチームにも黒人が多かった。    だから、そういう人種的感情からくる反発も多分に買っていたようだったんだ。    日本から移住してきた両親に育てられて、コミュニティも比較的日系の中で過ごしてきた俺は、その辺の感度があまりに低くすぎた。    本当に、幼かったとしか言いようがない。  アメリカという国の多様性の裏にあるエスニック(民族)コミュニティの連結の強さ、エスニックコミュニティ同士の確執――そんなものを理解せずにその歳まで育ってきたのだから。  そして日本という国がどれだけ平和だったかと言うことも今ならわかる。  まさかそうして向けられていた視線の中に、差別や侮蔑の感情だったなんて、思いもよらなかったほどに。  俺は――俺達日本人は、あまりに特殊な環境にいたのだ。     □ ■ □ ■
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加