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「……俺は、耳がいいくせに時々出てくるグロウのその聞き間違えに超がっかりだよ」
「なんでだ!?」
「この前、ムツゴロウがどうのって言ってなかった?」
「ああ、言ってた。ムツゴロウが恋な」
「それ、絶対ラヴェンダーさんに言わない方がいいよ。殺されるから」
「そうか……て、なんの話だ?」
「あのね? 俺はずっとそれをグロウに聞いてるよね?」
俺は疲れ切ってがっくりと肩を落とした。
つ、疲れる……。
「ああ、そうそう。思い出した。アレク、今日の夜、暇か?」
俺の指摘でようやく思い出したらしい。
ぽん、と手を打つと、グロウは床に座り込んで聞いてくる。
「今日の夜ねえ……」
俺は腕を組んで考えてみた。
予定……は特にないけど、見たい番組がある。
「用事あり」
「あ、嘘ついただろ、今」
けれどその少しの嘘をグロウは指摘して指さしてくる。
「嘘つきは泥棒の始まりなんだぞ」
「……俺達、なんの組織なんだっけ?」
「ということで、アレクは暇だな。よし」
勝手に納得し、立ち上がった。
そのままどかどかと部屋を出て行こうとする。
「ちょ、ちょっと待ってよ。一体今夜何があるのさ」
俺的には毎晩のビジネスニュースのチェックは欠かせないので、それをキャンセルしろと言うならそれなりの理由が欲しい。
けれどグロウは満面の笑みで笑うと言った。
「内緒!」
その笑みは、スラムの子供が何か悪戯をたくらんだ時のようで。
俺より二つも年上になる男を、俺は呆れた眼差しで見上げた。
日本じゃ『三つ子の魂百まで』って言うけど、グロウの場合は『三つ子の精神年齢百まで』だよ。絶対に。
「じゃな」
言って、ひらひらと手を振りながらグロウは出て行く。
俺はグロウが出て行った入り口を呆れ半分に見送って溜息をついた。
【See you next week!】
その傍らで、ラジオが番組終了を告げた。
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