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グロウとジョンの勝負は五分五分といったところだった。
ジョンは場慣れはしてる感じだったけど、いかんせん身体が大きい(控えめ表現)。
対してグロウはすばしっこくよけてはいるけど、右手が使えない上に喧嘩慣れしていないせいでうまく攻撃に移れずにいる。
「あっちゃあ……素人まるだしだな」
その勝負の様に俺が思わず呟くと、先に現場に到着していたジェイさんが俺に視線を当てて苦笑した。
「アレクと比べたらどっちも酷ってもんだ」
「でも動きは悪くないね。思ったより動けてるよ」
言って俺がジェイさんの方を見上げると、彼は苦い顔をした。
「あ~……俺らのいたところにやたら動きのいいジジィがいたからな。あいつよく遊びでそのジジィととっくみあいしてたから、そのせいかもしれない」
「動きのいいジジィ?」
「俺も何回かチャレンジしたが、俺もあいつも一度も勝てた試しがなかったな。あのじいさんには」
言いながらも、ジェイさんの表情は苦いを通り越してだんだん険しいものになっていく。
それに、何かグロウの勝負にあったのかと視線を二人の方に戻すけれど、勝負は相変わらず平行線が続いている。
だから不思議に思って再びジェイさんの方を俺が見上げると、彼はもう、元の表情に戻っていた。
気のせいか、とも思う。
けど、気のせいとして片付けるにはあまりにも印象的すぎた。
勝負に勝てなかった思い出が苦い、という風にとらえるにしてもあまりにも厳しいもの過ぎて。
それこそ、憎々しげですらあるくらいだったからだ。
「あ!」
けれど考え込んでいた俺は、そのジェイさん本人の短い声に注意を引かれた。
彼の視線を追いかけると、グロウが廃材に足場を取られて姿勢を崩したところだった。
その隙を逃すほどジョンも甘くない。
ジョンの太い腕がぶんっと唸って、右ストレートがグロウの左頬にヒットした。
たぶんかなり強烈な一撃だったんだろう。ぐらり、とグロウの頭が揺らぐのが見える。
軽い脳しんとうを起こしてても不思議じゃない。
「グロウ!」
思わず、ジェイさんが叫んだ。
そのチャンスを逃さずジョンが第二撃をふるおうとしていたからだ。
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