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相変わらずラットやマウスと仲良しのフェイをなだめすかせて現場に連れて行くと現場は想像以上の状況だった。
骨折者五名に俺に力業で投げられた時に肩が抜けたのが二名。
ほとんど俺の仕業だったわけだけど、一番の重傷者はなによりもーーグロウだった。
一週間前に縫い付けたばっかりの傷口はばっくりと開き、ついでに縫い穴からも出血していてひどい惨事になっていた。
「なんたる厄日だ! 災いだ! 今日はいい調子に実験が進んでいて上機嫌だったというのに、台無しだよ!」
意識の戻った者戻っていない者も含め一人一人の症状を確かめながら、フェイがヒステリックに叫ぶ。
夕焼けに赤く染まった彼の白衣を眺めながら俺は苦笑した。
忘れた頃にやってきた災いは、俺だけじゃなくどうも彼にまで降りかかってしまったらしい。
そのフェイの怒りが一番どこに向いたかと言えば当然――重傷者のグロウだった。
「私はねえ、君の専属主治医じゃないんだよ! どうして右腕を使わないという選択肢を考えないんだ!」
その場で処置できるレベルじゃなかったので、フェイの家までもつ程度の応急処置をしながらフェイが叫ぶと、グロウを痛みに顔をしかめながらもへへ、と笑った。
「男と男の勝負だからな。手を抜くのはなしだろ」
「手を抜く抜かないじゃない。使わずに全力で戦う頭を持てと言うんだっ」
「いてててて! 医者のおっさん、いてえよ! 締めすぎ!」
「なんだ、グロウは右肩を怪我していたのか」
その手当風景を打撲なんかはあるものの比較的軽傷のジョンがひょい、とのぞき込んで問うてくる。
彼は当初、アジトの中の惨事に愕然としたようだった。
でも一人一人の状態を確認して無事なのを確認して一安心したらしい。
やってきた時には幾分明るい表情になっていたんだけど、彼はその手当現場をのぞき込んで栗色の眉をしかめた。
応急処置自体は大分済んでガーゼが当てられてしまっていたけれど、紙テープで留めただけのガーゼには血が滲んでいたからだ。
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