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「ずいぶん重傷みたいだな」
「ああ、ちっとな」
「それなのにあの強さとは……さすがだな!」
「あんたも俺の右手があまり動いてないのに気づいてたのに攻めてこないでくれてただろ。サンキューな」
そう言ってへへ、と歯を見せて笑い合う二人に、挟まれる格好で手当をしていたフェイが苛立った声を上げた。
「ウザイ! ウザイよ! 筋肉の会話に頭がおかしくなりそうだ。私の脳みそが腐る前にどこかへ行ってくれないか!」
「筋肉の会話っておっさん……」
思わずツッコミを入れそうになるグロウだが、ただでさえ機嫌の悪いフェイは本日二回目の『おっさん』と言う単語に、細い目をさらに鋭くしてグロウを睨んだ。
「いや、ナンデモナイデス。ドクター」
「……とりあえず応急処置は完了。ジェイ! つれていきたまえ! そのままベッドに縛り付けて私が行くまでじっとさせておけ!」
その言葉に遠くで様子をうかがっていたジェイさんが軽く手を上げて了承の合図を送る。
そしてグロウの身体を引っ張り起こすと、そのままフェイの家に向かって歩き出した。
グロウはかなり全身痛そうだったしよろけてもいたんだけど、ジェイさんが手を貸してあげる様子はなかった。
どうも、彼は彼なりに怒っているらしかった。
「さて、後は骨接ぎか」
「……結構やばい人、いる?」
「君ねえ」
俺が問うと、フェイは呆れたように言った。
「自分でやったんだからそのくらいわかるでしょ。てか、わかるくらいコントロールはしなさいよ」
「人数多かったし体格差あって必死だったんだ」
「私はよく格闘技のことはわからないけどねえ、アレク」
言って、フェイは眼鏡を押し上げながら俺を見上げた。
「それは言い訳にならないんじゃないのかね。君は父上の教育が気に入らなかったみたいだが、結果中途半端な実力で暴力をふるうからこんなことになったんだろう。悪いのは投げ出して逃げ出す君の弱さじゃないのか」
その言葉に、俺は視線を落とした。
言い返すこともできない。
俺にもっと実力があったら、みんなをひどく怪我させるようなこともなかったんだから。
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