2)災害が忘れた頃にやってきた

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「ふっ」  少し不安に視線を揺るがせながらほこりだらけの路地の地面を眺めていた俺の上に、ふと笑いが降ってくる。  俺が驚いて顔を上げると、それまでと変わらず二人が去った方を眺めていたジョンが少し面白そうに顔を歪ませていた。 「どうしたの?」 「いや、さっきのグロウにな、誰かさんが俺のところにきた時を思い出したんだ」  と言いながらジョンが俺を見る。  俺のことを言おうとしているのはそれでわかった。  でも、なにをどう思い出したのか検討もつかず首をかしげると、ジョンは笑いを滲ませたまま続けた。 「突然俺らのたまり場に乗り込んできて、何事かと思ったらそいつ、パシリでも何でもするから仲間に入れてくれっつって頭下げてくるからさ、なんだこいつって思った記憶があるぜ」  俺は1年前の奇行を思わぬところで指摘され、それもグロウの行動と重ねられちゃったものだから、また視線を落とす羽目になった。 「え~っと、それはあ……」 「しかもそんなこと言うくせに、顔を上げると妙に目が据わってて度胸があんだよな。面白いから仲間に入れてやったんだ」   「……」  重ねられた言葉に俺は頬をかいて、沈黙した。  だってもうその時は破れかぶれだったんだ。    厳格な親父のいる家がとにかくいやで一番ワルのところに行ってやろうって、それしか考えてなかったし。  でも、グロウと一緒にされるのは、なんか釈然としない。  だって、絶対脊髄反射で突っ走りそうだもんあいつ。  俺は俺でいろいろ考えた上での選択だったわけだし。    ……や、家を飛び出したのは喧嘩の勢いだったけどさ。 「どこが違うってんだ」  俺が反論するとジョンが笑った。 「勢いで行動するなんてそっくりだろうが」  それに、そういうところがーー  ジョンは最後にそう言いかけて、どこかはっとしたように口を噤んだ。  俺が不思議に思って顔を上げると、ぽんぽんと、俺の頭をたたいてくる。 「なんでもない。さあ、俺達も治療の手伝いに行くぞ。それが終わったらアジトの片付けだ」  身を翻すと、そのままアジトの方へと歩いて行く。
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