62人が本棚に入れています
本棚に追加
「……手伝う」
そう言って紺色の長袖のシャツの袖をめくると、転がる缶だの空になったピザの箱だのを拾い始める。
俺は最初、キッチンに向かった時に手伝ってくれないものだと思っていたから、その申し出には少し驚いた。
「ありがと」
だから本当はすごく嬉しかったんだけど、その一言を唇に載せたっきりその先の言葉が途切れてしまった。
重たい沈黙が部屋に転がる。
一体どこからなにを聞いたらいいのかわからなくて、俺は必死に会話の糸口を探した。
でも見つからなくて、逆に何か話しかけてくれないかな、とも思ったりもした。
だけど、俺と確実に距離を取ろうとしているジェイさんの方から何か言ってくれるわけもなく、二人の間に漂う空気は次第に重さを増していった
俺はその重圧に耐えきれなくなったようにせり上げるため息をかみ殺しながら、空き缶をゴミ袋に放り込んだ。
からん、という他の缶とぶつかる軽い金属音がやけに部屋に響く。
――やっぱり、もういいや。
不思議なんだけどその音に耳を叩かれた瞬間、急に思考が途切れてしまった。
そうしたらもう、なにもかもが面倒くさくなり、俺は考えることを放棄する。だって、たった十四の俺には難しすぎたんだもん。
今だったらまあ、いろんな聞き方できるしうまく会話も運べるんだろうけど、この当時の四歳差ってのはすごく大きいじゃない?
そのすごく年上の人にいやな印象を与えずに上手に話を切り出すなんて、とてもとてもできる気がしなかったんだ。
なにより俺の中の疑問がたくさん降り積もりすぎて、もはやなにを聞きたいのかわからなくなっていたしね。
俺は途切れた思考の代わりに、今度は意識を外に向けた。
野良犬か飼い犬かわからない犬が、怒ったように鳴く声が聞こえたから。
するとがらりと窓が開く音がして、ヒステリックな女性の声が響いた。犬を注意しているみたいだから、飼い主だろうか。
それよりもっと遠くからは、映画でも放映しているらしいテレビからの人の声や、音楽なんかも聞こえてきた。
ああ、生活の音――。
俺は心の中で呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!