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ジェイさんには前に渡したのと同じアヒルのキャラクターの形をしたマグカップを、俺は犬の顔の形をした――ただし版権元は違うキャラクター――マグカップを手に、L字型になっているソファの短い方に俺は腰掛けた。
長い方にジェイさんがかけていたので、ちょうど斜めに向き合うような格好になる。
「――フェイがそんなことを?」
俺は、先にジェイさんの方から最近物思いにふけっている理由について聞かされて、驚きの声を上げた。
するとその声に反応したジェイさんが振り返って病室の方を見るので、俺は慌てて口元を抑える。
「俺みたいな両親そろってるやつと、スラム育ちとじゃ、友達になれないって、そう言ったの?」
今度は抑えた声で言った俺に、ジェイさんは頷いた。
俺は、それにマグカップの中身に視線を落とす。
揺れるコーヒーの真っ黒な水面に、おもむろにアジトで感じた冷たい目線がよぎった。
ああ、そうか――と、その時俺は初めてその視線の意味に気づいた。
同時に、自分の思い上がりが恥ずかしくなる。
ずっと、仲間に、友達になれた、と思っていた。
でもそれは俺の一方的な思い込みでしかなかったんだ。
「……アレク」
一度視線を落としたっきり上げようとしない俺に、ジェイさんは少し優しい声で呼びかけた。
「俺は、そうは思わってない。実際グロウとジョンはかなり通じ合ってるように見える。デザート・ウルフの他のメンバーともな。あいつの動物的な裏表のない性格もあるんだろうが、それでもフェイの言うマリアナ海溝より深いっていう溝を乗り越えたんだと思う」
ジェイさんの言葉に、俺はかすかに視線を上げた。
同時に大きな手が降ってきて、俺の頭をくしゃりと撫でる。
「そりゃ人間育ってきた環境が違えばそれぞれの間に最初はいろいろな感情はある。でもたぶん、わかり合えないなんてことはないはずだ」
俺の頭を撫でながらジェイさんは続けた。
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