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「だけど、俺自身ちょっとやってみたいとか思ったところはあったよ。まじめにまじめに締め付けられてばっかりの生活だったから、羽目外してみたいって言うのもあってさ」
「……デザート・ウルフで、そういう行為での収入はどのくらいになってるんだ?」
「え?」
「フェイが、そういうことで組織としての収入源を稼いでるって言ってた。だから、どのくらいなんだろうって思ってな」
俺は思いがけないことを聞かれて目を丸くした。
てっきり怒られたりなじられたりするんじゃないかって思ったからだ。
「……詳しくはわからないけど、結構になるんじゃないかな。スリとかかっぱらい以外での収入稼いでるメンバーがいるって話あまり聞かないから」
「そうか……」
「どうして?」
「いや……」
ジェイさんは腕を組むと、あごを軽く撫でた。
それは彼が物思いにふけっている時に時折見せる仕草で、密かにかっこいいな、なんて思ってた仕草だったりした。
今度機会があったらやってみようかな――なんて思いながら俺はジェイさんからの言葉の続きを待った。
「ずっと考えていたんだ。フェイの言う境遇の不平等さは、どうしたらぬぐえるんだろうなって」
「……どういうこと?」
「フェイはアレクとスラムの子供達を比較した。俺は正直アレクの家の経済状況を知らないから何とも言えないが、まあ確かにスラムの子供達よりは恵まれているだろう。だけどこの国の不平等は、そんな小さなものなんだろうかってな」
「……もっと大きな不平等がある?」
「ああ……現にこのスラムから少し歩いた区画には高級ホテルやビジネス街が立ち並ぶエリアがあって、さらにもうちょっと移動したらビバリーヒルズがある。金持ちの街だ。この不平等の方がよっぽどひどいと思うぞ」
「確かにそうだけど、でも、どうしようもないよ」
「どうしようもない?」
「だってハリウッドとかで成功した人達だよ? それだけの実力があるからお金も手にできるんじゃないか」
「そうだな。でも、挑戦すらできない状況にいてもなお、それは不平等じゃないと言えるのか?」
ジェイさんの言葉に、俺はかすかに息を呑んだ。
思わずじっと彼のかすかに伏せられたアイス・グリーンの眼差しを見つめてしまう。
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