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今まで、二人は自分の境遇を話してくれたことはない。
単語としてぱらぱらと出てくるところはあったけど踏み込んだ話が出てきたのは初めてだった。
だから俺はここにいていいのだろうかと、少し迷う。
けれどグロウと向き合っているはずのジェイさんが軽く俺に視線を投げた。
まるでそこにいて聞いていろと言うようにかすかに頷く。
その合図に、俺は浮かしかけた腰を下ろした。
息を殺して二人のやりとりを見守ることにする。
「一歩違ってたら俺だってこうしてスラムで盗みしながら生きてることになってたかもしれない。自分の境遇を呪いながら、どうしようもないと諦めていたかもしれない。だから俺にはどうしても、あいつらが俺と違うなんて思えないんだ!」
「だからって俺達になにがしてやれるって言うんだ? 今の状況で」
「そりゃ、危険なのはわかってる。孤児院襲った奴らの正体だってわかってない。でもいつ来るかわからない襲撃に怯えてここに閉じこもってたってなにも変わらないだろ!」
襲撃?
いつ来るかわからない?
グロウから飛び出した単語に目をむいて、俺はまたジェイさんを見た。
だけど彼はもう、俺の方を見ていない。
俺に背中を向けてグロウさんと向き合ってる。
――これは、俺が聞きたいと思っていたことへ間接的に答えている、そういう判断でいいのかな。
でも、そう、これも聞きたかったことなんだ。
どうして真っ当にしか見えないグロウが肩を撃たれたのか。
確かにアメリカじゃそういう事件はたくさんあるよ。
でもだからこそ普通の事件なら、わざわざジェイさんがスラムに引きずって来る必要はないんだ。
もっと普通の病院にすぐさま運べばいい。
身を隠すように布をかぶって人目を避けながら、スラムに来る必要なんてない――狙われて、追われているんじゃない限り。
俺はぎくりとなって、再びジェイさんの背中を見た。
閃くような予感に、鼓動が早くなるのを感じる。
ねえ、ジェイさん、どうしてあなたは今このタイミングでそれを俺に聞かせようとするの?
距離を取ろうとしていたのは、何故?
常に銃を手放さず、ぴりぴりと張り詰めたように神経をとがらせていた理由も――
すごくすごくいやな予感がするんだ。
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