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俺は祈るようにグロウを見た。
だけど、グロウも俺の方は気づいていない。
睨み合うようにジェイさんをじっと見つめてる。
「フェイの言葉を聞いてたんだろ。たとえ元が孤児だって育ってきた環境の差は覆せない。お前があいつらのために頑張ったって、いつかは裏切られるぞ」
俺に言ったのと全く真逆の言葉を、ジェイさんがグロウに投げつける。
それに、グロウのただでさえつり目がちな眼差しがますますつり上がるのが見えた。
ああ、やっぱり……!
俺は、心の中で喘いだ。
「ジェイ、お前っ……!」
グロウがいきり立って立ち上がり、ジェイさんの紺色のシャツを掴む。
「待って!」
それとほぼ同時に俺も腰を浮かせると、声を上げた。
「待って! グロウ落ち着いて」
言いながら、俺はほとんどローテーブルを蹴るようにして二人の間に滑り込む。
ガシャンと、ガラスの張ってあるローテーブルが悲鳴のような音を立てたけど、思い切り弁慶の泣き所にテーブルの角が当たって泣きそうに痛いけど、そんなこと言ってる場合じゃない。
俺は必死に、ジェイさんのシャツを掴むグロウの太い腕を掴み、締め上げるように握りしめると、同時に振り下ろされようとしていた拳も逆の手で受け止めた。
「アレク! 邪魔すんな!」
「邪魔するよ! ここまで会話聞かせといて部外者だからとか言うんだったら、俺がグロウを殴るからな!」
「う……」
「ジェイさんも!」
俺はそのままの姿勢で声だけで背後にいる人に呼びかける。
「あなたの言い方は、卑怯だ! 泥をかぶる気かもしれないけど、そんなの誰も望んでない!」
俺の言葉に、ジェイさんからの反論はない。
でもその沈黙が何よりも雄弁な、彼の肯定の答えだった。
やっぱり彼は、一人悪人になって、そして――
「……二人がどうしてスラムに流れてきたのか、その前になにがあったのか、俺はよくわからない。知らないよ。でも、その起こった事件全部、ジェイさんのせいじゃないだろ! いや、ジェイさんが原因だったとして、それでグロウから距離を置こうとするなら、グロウに失礼だ!」
俺の言葉に、グロウが目を見開いた。
そして俺の肩越しにジェイさんを見る。
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