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でもそれを、グロウに何とかできるわけもないし、そもそも気づいていなかった。
だから俺がなんとか必死でジェイさんの数十キロ後でもついていって、それをメンバーに翻訳して伝えて、理解して貰って――て、必死に両者の間を埋めていったんだ。
そうやって進めていくうちに、さすがのジェイさんもギャップには気づいたみたいだった。
ただ、気づくこととコントロールできることは違う。
周囲に合わせて見ようと試みたりはし始めたんだけど、そうしたら今度は彼の方が焦れてしまうことが増えてきた。
そこで結局彼がどんな対策を取ったかというと、やっぱり通訳を使うことにしたんだ。
つまり俺ね。
だからミーティングの時は俺一人で大変よ。
あっちの言葉聞いて翻訳して、こっちの言葉聞いてなだめて。
毎回毎回へとへとだった。
でも後から考えたらすごいいい経験ではあったと思う。
あんな仕事できる人と一緒に何かするってなかなかないからさ。
それは確実に今、チームの参謀というか唯一の頭脳派的ポジションで何か作戦を考えたりする時にすごく役立っているからね。
ある意味、俺の師匠がジェイさんってことになるのかもしれない。
「……ようやくここまでこぎ着けたな」
ある夜、ジェイさんが呟いた。
あの三人で何かを変えようと誓った夜から一ヶ月くらい経った日のことだった。
作戦のほとんどを立て終えて、必要な物資も手配し、メンバーへの当日の動きの説明を完了して――
明日には作戦を決行する、そんな夜のことだった。
この頃、アジトと居候してたフェイの家とを往復しなければならなかった二人は、さすがに狙われている身だけあって変装していた。
でもキャップやパーカーの帽子をかぶって髪を隠し、サングラスをかけ、服をそれこそストリートキッズが着るようなだぼっとしたB系ファッションに変えたらほとんど元の姿はわからなくなっていたから、結構大胆に大きな通りを歩いたりもしていた。
ちょうどジェイさんが呟きを漏らしたのも、変装しつつもアジトからフェイの家へと帰る途中のことで。
車が通るくらい大きい通りを歩きながら、ジェイさんは軽くかぶっていた帽子のつばを持ち上げて月を見上げた。
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