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「最初はどうなるかと思ったけど、なんとかなるもんだな」
「そうだね。あとは当日、グロウ達突入部隊が失敗しなければミッションコンプリートだ」
「するわけないだろ。俺を誰だと思ってる」
「「筋肉馬鹿」」
俺とジェイさんが見事にハモると、グロウはむうと頬を膨らませた。
意外に子供みたいな仕草をするグロウに、俺は思わず吹き出してしまった。
「しかし、ゴッド・フィアーか。あくどそうな顔してるねえ」
俺は抱えていた資料の一番上に、クリップで留めてあった写真に目を落として呟いた。
そこには上等そうなスーツに身を包んだオールバックの男が映っていた。
ベロア生地のソファに腰掛けて、少しかっこつけるように肘をついて映っているだけあって、容貌はまあ、そこそこ、と言ったところ。
だけど人間、二十歳過ぎたら顔に出るって言うからね。
悪くはない顔はすっかりあくどそうに歪んでしまっていて、写真からでも彼の腹黒さは伝わってきそうですらあった。
「偽の絵画を売りさばいて稼いでるんでしょ?」
「と、詐欺だな」
俺の呟きにジェイさんが付け加える。
「しかも詐欺働いて貯めた金で詐欺働いてるビバリーヒルズに家建てるって言うんだから相当の面の皮の厚さだぜ」
「やだねえ」
「ま、偽の絵画も稼いだ金も含めて全部いただいちまえば、しばらくは身動きとれないだろ」
グロウが言って、拳を自分の手のひらに叩きつけた。
いただいちまうって、なんかこう、ワルっぽいのが板についてきたなあ、グロウ。
「……でも、いいのか?」
ジェイさんはそんなグロウは無視して俺の方に問いかけてくる。
「俺とグロウは事情がある。でもアレクは単に家出しただけだ。今ならまだ引き返せるんだぞ」
ジェイさんの言葉に、俺は思わず足を止めた。
「なにそれ」
「わざわざ犯罪者になる必要はない。そう言ってるんだ」
「だからそれ、どういう意味?」
俺はきつくジェイさんを見上げて言った。
「たとえそれが詐欺で稼いだ金だろうと、人から盗むのは犯罪だよ。わかってる。わかってて俺は今まで、手伝ってきてたんだよ」
「……アレク」
「それなのに、今こんな瀬戸際になってそんなこと言わないで」
言って俺は視線を落とすと、「それに」と続けた。
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