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「いいか? ちょっと走っていってぶつかるふりすればいいんだ。んで相手に接触してる一瞬を狙ってうちポケットのものをいただく、と」
「うん」
「お前タッパ足りねえけどその分ベイビーフェイスだし、相手も油断するだろ。ぶつかった時が無理だったら怪我した風を装って介抱してもらってる時に隙をつくんだ」
「うん」
スラムと外との境目。
ある路地裏でそう言って俺に言って聞かせるのはフレッドだ。
俺が入り浸り始めた不良グループの一人で、ぼさぼさの金髪にそばかすの浮いた顔、俺より二つ年上のくせにどこか落ち着きなく視線を彷徨わせているような彼は、明らかに下っ端、と言う感じだった。
しかも、スリとかやってる。
そんな彼に何で指導なんか受けてるかというと――
お前すばしっこいから、スリでもやって見ろ。
そうやってグループのリーダーのジョンが言ったから。
フレッドはその言葉を受けて俺にスリのノウハウを教えてくれるってわけ。
今から考えればスリなんて、というか犯罪なんてするもんじゃなかったんだけど、とにかく子供だよね。
なんかいけないことをやろうとしている自分がかっこいいように思ったりしちゃって、わくわくしながらフレッドの話を聞いていたんだ。
「じゃあ、度胸つけるためにも、盗めなくてもいいから次に来るやつにぶつかっていけ。いいな?」
フレッドの言葉に、俺は一際大きく頷いた。
そして、路地裏から通りを伺う。
時刻は夕方、と言ってもずいぶんと夕陽が沈んでしまった後で、当たりには夜のとばりが降り始めていた。
その中で遠くから人が歩いてくるのは見えたけど、最後の勇姿、とばかりに強烈に輝いている夕陽の残光で逆光になってよく見えない。
でも、足の本数や陰の大きさから見て、男の人が二人、肩を組んで歩いているようだった。
心なしか足取りがおかしい気もするけど、酔っているのだろうか?
そんなことを思いながら、俺は飛び出すチャンスをうかがった。
「よし! 行け!」
フレッドの声を合図に俺は路地から飛び出す。
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