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コンコン
ノックの音を聞いた気がして、俺はうっすらと目を開いた。
コンコン
さらに音は重ねられる。
今度はきちんと目を開き、ぼんやりと天井を眺めた。
えっと、俺、どうしたんだ?
寝ぼけてまとまらない思惟で状況を確認しようとする。
確かここのところすごい忙しかったから、自分へのご褒美代わりに優雅な午後を楽しもうとラジオを聞いていたんだ。
そうしたらグロウが邪魔しに来て、おかげでクラシックチャンネルが終わっちゃったんだよね。
で、その後はチャンネルはそのままで本でも読もうとして、どうしてか過去のことが思い出されて、思い返しているうちに――眠ってしまったらしい。
俺はそんな自分に苦笑しながら、胸の上に開いたまま置かれていた本にしおりを挟むと、窓の外を眺めた。
もう大分日が沈んだらしく窓の外は薄闇が滲むように広がりつつある。
クラシックチャンネルを聞いていたのが昼過ぎだったから大分長いこと寝ちゃっていたらしい。
思いながらソファから身体を起こす。
そして二度目のノックの後、沈黙している扉の方へ歩いた。
「フレッド」
扉を開けるとそこにいたのはもしゃもしゃの金髪の青年だった。
七年前の子供だった頃に比べたら泳ぎっぷりはましになったけど、それでもどこか視線の合わないフレッドは部屋の中を覗いてから、軽く俺に視線を当てた。
「今ちょっといいか?」
「うん。なに?」
「来てほしいところがあるんだ」
「いいよ。でもちょっと待って」
一つ頷いて、俺は部屋に戻った。
すでに音楽番組の時間枠は通り過ぎてしまったラジオはトーク番組になったらしくて、男女の会話を延々と垂れ流している。
俺はそれを切ると部屋のカーテンを閉め、部屋をでがてら電気を消した。
「……律儀だな」
「日系だから神経質なんじゃない?」
フレッドの言葉におどけたように答えると、フレッドは呆れたように肩をすくめた。
そのまま、俺を先導するように歩き出す。
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