1)袖振り合うも多生の縁とはいうけども、ねぇ

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 勢いよくどん、とぶつかった俺はしりもちをついた。  初めからうまくいくとも思っていなかったので、俺はそこから作戦その二、怪我したふりして隙をつこう作戦に移行しようと顔を上げ――凍り付いた。  そこにいたのは、二人組の男。  薄い金髪の眼鏡をかけた男と、その彼に、引きずられるようにして背負われた朱色の髪の男だった。  大人と言うには若い感じがしたから、二人ともハイスクールの生徒か、カレッジの学生くらいかもしれないかったが、浮かべていた表情が尋常じゃなかった。  朱色の髪の男の方はほとんど意識がないみたいで、眉間に皺を寄せた蒼白な顔で虚ろに空中を見つめていたし、それを背負う眼鏡の男の方は、まるで今まさに一人殺してきたような人相で俺を見下ろしていた。  しかも姿を隠すように被った大きな布の陰から見えた、眼鏡の男の左手には、銃が握られている。  俺はさっと青ざめ、どうしよう、と後ろを振り返り、フレッドの方を見た。 「あっ」  けれど彼はぱっと見てその二人組がやばいと思ったらしく、俺が振り返った時にはもう、どこにもいなかった。  くっそ~  逃げ足の速さはさすが下っ端、と言えるけど残された俺は冗談じゃなかった。  どうやって逃がしてもらおうかと二人組の方を見上げる。  そして気づいた。 「……怪我?」  背負われている朱色の髪の方の右腕には包帯が巻き付けられていて、それが真っ赤に染まっていた。 「その人怪我してるの?」  俺が思わず口に出すと、それまで険しい顔をしていた眼鏡の男が少し、目を丸くした。 「……ちょっとな。ドジやったんだ」  そうして呟かれた声は意外に柔らかく、同時に緩められた眼差しもどこか優しい雰囲気があった。  それを見ていたら、なんでだろう、放っておけない気分になって。 「こっち!」  そう言って、来たのとは別の路地裏の方に彼らの袖を引いていた。 「手当てできる人、知ってるんだ」  最初、眼鏡の男の方は俺を警戒したみたいだった。  でも俺がそう言うと、背負っている男の方をちらりとみて、それから俺の後をついて歩き出した。     □ ■ □ ■
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