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「今なら、それができるんじゃないか?」
確かに、ジェイさんの通訳をずっとやっていて、メンバーにどうやったら伝わるかとか、ずっとやってきたから。
前よりはうまく話せるかもしれないけど。
「別にもう帰ってくんなって言ってるわけじゃねえんだよ」
グロウが腰掛けていたソファから立ち上がって言う。
「遊びに来たきゃ来たらいいし、親父さんとのバトルがどうしようもなくなったらまた逃げてくればいい。でも逃げ続けるのはだめだ」
「でも……」
「もう十分、逃げただろ」
言いつのろうとする俺に、グロウが重ねて言った。
「だけど、戦うことも知った。戦う意味も知った。十分のはずだ」
その言葉に、俺は不意にフェイの言葉を思い出した。
俺が未熟だったから怪我をさせてしまったチームメンバー。
武道とは心を鍛えるものでもあるはずなのに、未熟なままにふるった、増長した自分。
鍛えるところがない、なんてとても言えない。
「……わかったよ」
小さく呟いて、それから俺はジョンを見た。
赤いたてがみみたいな髪のジョンは、目元を少し柔らかくして、でもどこか寂しそうに笑った。
「俺達は変わらずここにいるから、また戻ってこい」
帰れと言いながらも、『戻って』来てもいいという。
その優しさが心にしみて、俺は一つ頷いた。
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