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「やっとでていってくれるのか」
家に戻ると告げた時のフェイの反応はそんな冷たいものだった。
話がある、と言った時は俺の方を向いてくれていたのに、話を切り出したらマウスの方にまた向き直ってしまって、少しむっとなる。
けど、俺の話を背中で聞くフェイのしわだらけの白衣で覆われた背中がどうしてか少し寂しそうに見えて、俺はぎゅっと抱きついてみた。
「な、なにするんだね! マウスが逃げたらどうしてくれる」
「……今まで、ありがとう」
いろいろな思いを込めて言うと、それまで逃げだそうとしていたフェイは一つ息をついてマウスをゲージの中に戻した。
「……お父上と戦う覚悟は決まったのか?」
「まだ完全ではないけどね。でも俺の人生は俺のものだから」
「言わなかったけどね、お母上からは何度も連絡が来ていたんだよ。心配もしていたし、帰ってきたらきっと味方になってやると言っていた。少し頼るといい」
「でも……」
「親だって完璧な人間じゃない。間違うこともある。逆に何かあれば思い直すことだってある――これまでは父上の味方のように見えたかもしれないが、それでも君をここに逃がしてくれて、君がいない間に考えた結果がそれだ。信じてやりなさい」
「うん」
頷いたら、なんだか視界がぐにゃりと歪んだ。
あ、泣きそうだ。
「……これだから子供は」
身体を震わせ始めた俺を、フェイは呆れたように言った。
けれど決して振り払おうとはせず、逆にぽんぽんと頭を軽く叩いてくれる。
「なにをやってもいい。でも、私のように社会からドロップアウトすることだけはするな」
その、少し真剣な色の混じった言葉に、俺は驚いて顔を上げた。
けれどその顔を見られたくないのかぐい、と再び白衣に顔を押しつけられてしまう。
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