destitute

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オレンジの光が微かに開いた瞼の間から漏れてくる。 重い瞼を何度か動かすと不鮮明だった視界が段々とクリアになっていく。 ここはどこ? 清潔感がある白い空間。 私は眼球だけを動かして周りを見渡す。 私の眼球は私の横で心配そうに私を見つめている白衣の男性のところで停止した。 誰?あなたは誰ですか? 見覚えがあるようなその整った綺麗な顔。 でも思い出せない。誰だろう? 「目覚めたのかい?」彼は優しく私に微笑みながらそう言った。 まるで有名な画家が描いたかのような完璧に整った顔。 声も聞き覚えがある。 低くて、優しくて、そして甘いその声。 彼の声にはホットミルクのような優しさがあった。 「こ、こ、こ」声帯が上手く振動してくれない。 何かが喉につまってるかのように私の声は上手く出てこない。 「こ、こ、こ、ここは?」私がようやく絞り出した言葉はこれだけ。 「ここは病院だよ」 病院?何で?何で私が病院に? 彼は私の心が読めているかのようにその答えをすぐに私に教えてくれた。 「手首を切って運ばれて来たんだ」 手首を切った?運ばれてきた?何で? 思い出そうとしても思い出せない。
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