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患者の母親であるその女性は、しきりに娘の名を呼びながら涙する。
その肩を抱きながら、父親も唇を強く噛み締めた。
「行けます!」
看護師の声に頷き返し、もう一度ショックを与える。
どんっ
細い体が、再び跳ねる。
「駄目です、戻りません…っ」
「諦めるな、次、360」
「は、はいっ…行けます!」
どんっ
折れそうな程、華奢な体が跳ねた。
深刻な様子でモニターを見ていた看護師は再度首を横に振る。
同時に母親が大きな声を上げて、その場にへたり込み、父親も苦しげに呻いた。
一通りの施術を試みたが、彼女が戻る気配は無かった。
「…午後11時58分、お気の毒です」
病室の医師、石田竜弦はさして変わらぬ表情で軽く眉根を寄せ哀悼を示したまま、ベッドに横たわった患者に、そしてその遺族となった夫婦に声を掛けた。その瞬間。
「先生っ!」
悲鳴に近い声と共に看護師が信じられないとばかりに叫んだ。
「患者の容態、戻りました!」
「…何?」
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