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「白哉さん、着替え、ここに置いときますね」
浴室の白哉に軽く声を掛けると、台の上に着替えを置く。すると
「ああ、ありがとう」
中から返答が返って来た。その声に、今更ながらドキリとする。思えば、父にすらこうした事をした事が無かったのだ。まして、相手が今日会ったばかりの男性であれば、希紗の反応は至極当然に思えた。
(は…早く出よう…っ)
顔に一瞬で朱が差す。
「い、いえ!じゃあ、ごゆっくり」
慌てて告げれば、そそくさと出ていく。
脱衣所から出ると、そのままペチペチと頬を叩いた。
「ゆ、夕飯の準備でもしようっ!」
気を紛らわせる為にそう声に出せば、今度は台所に向かう。誰かに料理を振る舞うのも、実を言うと初めてだ。
「…何か、いいな。こういうの」
今まで出来なかった事が出来るのは、とても新鮮だし、贅沢な事だと思う。
「あ、でも白哉さん、好き嫌いないかな?」
出来れば彼の好きな物を作りたいが、長年の入院生活で自分が作れる料理など、高が知れている。
「カレーとかなら、大丈夫だよね、多分…」
それくらいなら、作り方を誤る事もそうは無いだろうし。そう思えば、ストッカーから野菜やルーの素を取りだし、炊飯器のスイッチを入れる。
「が、頑張ろうっ!」
拳を握れば、いつになく気合いを入れて希紗は夕飯の準備に取り掛かった。
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