ダウト case.4

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高級そうな匂いが漂う。床に敷かれたワインブラウンの絨毯の匂いだろうか。 黒い硝子テーブル。中心には灰皿と花器。 テーブルを挟むように置かれたベージュのソファ。 上座の後部には机があり、側面の木目がニスで艶やかに光を反射している。 窓となっている壁一辺からは都会の町並みを一望出来る。 ビルの一室。 ―――数分前、少年はホームで見掛けた男の後を追っていた。 はず だった。 ――――男に案内されるがままにソファに腰を掛ける少年。男も同時に腰を掛ける。 「単なる好奇心からか…なるほど。しかし、後を付けるのは思わしくありませんね。」 落ち着いた大人の声だった。 「すいません。」 恐縮しているのか、少年は言った。斜め下を向く。 少年とインテリな雰囲気を持つ男。 二人しか居ない室内は、何故か張詰めてた。 「私は神谷と申します。」 口火を切ったのは、男の方だった。でも無表情のまま。そして続ける。 「今はとても良い気分です。たまには話相手が居るのも悪くありませんね。」 と言いながら、神谷はそっと立ち上がり窓際から街を見下ろした。 怒られると思っていた少年が顔をあげる。 「…神谷さん、さっきホームで泣いてた人は…」 誰も座っていないソファに向かって言う。 「そうか、君は元々その話を聞きたがっていましたね。」思い出したように神谷は机の上にあったサイコロを指で摘む。そして少年に見せた。 「簡潔に教えましょうか」 少し笑ったように聞こえた。 ――――― 「サイコロは江戸時代に賭事をイカサマする為に頭の良い人間が1の目を大きく彫り、重心が6に集中するように作ったそうです。しかし、このサイコロは更に6の目に鉛を仕込んであります。」 神谷はテーブルの上にサイコロを転がした。そして掌でそれを伏せるように隠した。 「サイコロの目を当てたら、詳細を教えましょう。」 少年はサービス問題だと思った。緊張感が解ける。 まるで、これは冗談なのかと笑ってしまう。 1以外何が出る(笑) 「それ…1です。」 自信はあるが、神谷の手から視線が離せずにいる。 「君は賢い。」 言いながら神谷はそっと手を開ける。 「…」 少年の表情が固まる。 「と思ったが…思い過ごしだったようですね。」 ―― 相手を如何に見抜き 自らを信頼させる その定義をあの男に当てただけです。 ―― 1の目の彫り 鉛 全部嘘であった。
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