5年前――マンション――

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私は視点がやけに低いことに気づいた。 青年はその腕を掴んでいた私の手を振りほどいて、走り去ってしまったのだ。 「吹き飛ばされたんだ、私……」 呆然と呟いて、乱れた髪を掻き上げる。 玄関は中途半端に口を開き、その縁にパスケースを遊ばせていた。 「落とし、た……?」 頭を打ったのか、鈍い痛みが響く。 顔をしかめて後頭部をさすりながら、這いずるように玄関まで移動する私。 パスケースには、学生証が入っていた。 顔写真は、青年のものだ。 落ち窪んだ瞳に光はなく、痩せた顔に生気は感じられない。 『天海治』 アマミハル。 アマミ ハル 何処かで聞いたような気がしたけど、思い出せそうで思い出せなかった。 そういった靄のようなわだかまりを引き摺りながら、私は漸く立ち上がる。 天海治を、追い掛けなくては。 私はそれしか考えていなかった。
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