5年前――マンション――

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マンションの三階から階段を駆け降りる私。 緊張と激しい運動で心臓は千切れてしまいそう。 けれども。 私はその時、初めて知った。 本当に緊張すると、ヒトの心臓は動かなくなるんだ。 薄い灰色の舗装された道路に、赤い飛沫が撒き散らされたかのように花を開いている。 サイレン、鳴った。 私は既に混乱を始めていて、目に見える全てが波間にたゆたうように揺れる。 彼だ。 『天海治』だ。 彼のサイレン、彼の血痕。 それが何故かは解る筈もないけれど。 ただ、間違いない。 彼のサイレン、彼の血痕。 「どう、して……」 呻いた私に返事をするヒトは居ない。
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