4人が本棚に入れています
本棚に追加
分厚い雲も、寂しい星空も、二枚ガラスの窓もつんざいて耳に飛び込むのはサイレンの音。
それは空耳だけど……
虫の知らせってヤツ。
部屋の電気を点けて、六畳間の隅に押し込んだベッドから跳ね起きると、直ぐに携帯が着信を告げた。
非通知。
通話ボタン。
低めで嗄れた、女の人の声。
「はい……はい……」
通話口から声が溢れ出すのと同時に、私はもう着替え始めていた。
慣れている、から。
電話の声にテンポ良く返事をしながら着替えを済ませて鍵を取る。
大股でフローリングを踏みつけると、化粧ポーチを蹴り上げるように足で引き寄せた。
通話終了。
と、同時に化粧ポーチを開く。
小さなミラーに一部分だけ映る、疲れた若い女。
それが私だ。
極簡単に化粧を済ませ、私は直ぐに独り暮らしのアパートを出た。
最初のコメントを投稿しよう!