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病院が慌ただしいのなんて、救急車が到着した時位なもんだ。
特に、こんな事例だったら余計。
私は待合室で携帯を弄りながら医者が呼び掛けてくるのを待つ。
患者の安否も分からず、誰が診ているのかも分からないビミョーな時間。
「スミマセン、『天海さん』の……?」
奥から姿を現した看護師に呼ばれて、顔を上げる。
「はい」
「あ、ちょっと教えて貰えますか?」
見たことない人。
春だし、新人か。
小脇にかかえたクリップボードを見遣って小さく息を吐く。
「えぇ」
「大変でしたね」
看護師は呟くように言って、私の横に座る。
ここからは質問攻めだ。
『お名前は?』
「早瀬沙夜(はやせさや)です」
『おいくつですか?』
「二十四です」
『天海さんとは?』
「婚約者です」
看護師の、手が止まった。
微かにペンを持つ手が震えている。
私はそっと、その手に冷えきった自分の手を重ねた。
「大丈夫、今月で五回目だから」
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