5年前――マンション――

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青年は視線を私に向けたまま、床で何かを拾ってこちらへ投げ付けた。 「ひっ」 短い悲鳴と共に、跳び退く。 その足元に、紙くずが転がった。 「……カ……」 「えっ、『か』?」 帰れって? まあ、いいけど。 なんだか怖いし。 「カレー、パン……」 「んっ?」 今投げ付けたばかりの紙くずを指で示して、絞り出すように青年が呟いた。 ふと、視線を落とす私。 「あ」 紙くずじゃなかった。 足元に転がるのは、くしゃくしゃに丸まった千円札だ。 「パン? 食べるの?」 それを拾い上げて丁寧に伸ばしながら、射し込む陽に透かしてみる。 真ん中の楕円形に、ぼんやりとした『ヒゲのオジサン』が浮かび上がった。 その、なんとも憂鬱そうな表情が、向こう側に見える青年と重なる。 「じゃ、一緒に行きますか」 「……う……?」 私は大股で青年の前に近付くと、キレイに畳んだ千円札をその眼前へ差し出した。
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