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青年は視線を私に向けたまま、床で何かを拾ってこちらへ投げ付けた。
「ひっ」
短い悲鳴と共に、跳び退く。
その足元に、紙くずが転がった。
「……カ……」
「えっ、『か』?」
帰れって?
まあ、いいけど。
なんだか怖いし。
「カレー、パン……」
「んっ?」
今投げ付けたばかりの紙くずを指で示して、絞り出すように青年が呟いた。
ふと、視線を落とす私。
「あ」
紙くずじゃなかった。
足元に転がるのは、くしゃくしゃに丸まった千円札だ。
「パン? 食べるの?」
それを拾い上げて丁寧に伸ばしながら、射し込む陽に透かしてみる。
真ん中の楕円形に、ぼんやりとした『ヒゲのオジサン』が浮かび上がった。
その、なんとも憂鬱そうな表情が、向こう側に見える青年と重なる。
「じゃ、一緒に行きますか」
「……う……?」
私は大股で青年の前に近付くと、キレイに畳んだ千円札をその眼前へ差し出した。
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