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自分が生まれる前から、既に掟はあった。だからそれが当たり前なのに、なぜ同情されなければならないんだ。
そう言って、幼い頃に陸は海の前で泣いたことがあった。
海はその時、哀れみや同情は相手を傷つけることもあるのだと知った。
「……悪い、陸」
海が謝ると、陸はにっと笑った。
その瞳に、その表情に、先ほどの冷たさは無い。
「じゃ、帰ろうか。
早く来なかったら、海が楽しみに隠してるお饅頭僕が食べちゃうからね~」
「はあ!?何で知って…
って待てコラ――ッ!!」
海の言葉を無視し、陸は笑いながら走って行く。
海は慌てて陸の後を追いかけた。
陸と海が18歳の、ある春の出来事である。
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