痛覚リステル(妹太妹)

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もう一度目を瞑って想像してみる。 一本の矢が太子の心臓を貫いて、倒れ、動かなくなる。 何度もなぞった。 だが矢を引き抜けば、太子はクジラの様に傷口から血を吹きながら「痛いじゃないかもー!!」と漫画の様に怒り出す。そんな太子がそこに居る。 死ぬ筈がない。 僕の頭の中の太子はピンピンしていて、また普段通り笑っている。笑って、いる。 ああ、頭が痛い。 それなのに、どう足掻いても変える事のできない太子の死。だから僕はその結末を否定してきた。何度でも。 すると、どういう訳か世界は再構築され、僕は自室の天井を眺めながら太子の死を想像しようとして、想像出来ずに、こうして頭を痛める朝を迎えているのだ。何度でも。 誰の仕業なのかは分からない。ここが何百回目の世界なのか、そんな事もどうだっていい。 迷い込んだのは永遠に停止した世界。永遠にループし続ける世界。一歩も前に進めない世界。 それが幸か不幸かは分からないが、ただ一つ求めるのは『可能性』。 太子の死が回避出来る可能性が、ほんの一握りでもある世界が存在するのなら、僕はそこに辿り着きたい。
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