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ビルが建ち並ぶ都心部にその会社はあった。
一昨年まではライバル会社の圧倒的な企業戦略で利益幅は右肩下がりだったのが、今年始めに入ってから急に売上を伸ばし、上場企業の仲間入りしていた。
片峰インダストリー。
日本有数の軍需企業である。
手紙の主はこの企業の本社勤務をしている男性からだった。
レイモンド=カーティス。
年齢は四十代半ばだろうか。
頬にはナイフの傷痕らしきものが残っている。
スーツの上からでもわかる太い身体つきは、決して太っているのではなく、鍛え上げられたものだということが窺い知れた。
レイモンドは会社の応接間に来ていた。
ソファーに座る客人二人を目の前にして、少しばかり嬉しそうな表情で見ていた。
「来ていただいて本当に助かりました」
社交辞令ではなく本当に心からの言葉であったが、目の前の少年に通じなかったのか、少年は無表情を崩さなかった。
「確かに来て正解だったかもね」
部屋の中を見渡して少女は嘆息混じりに話す。
「随分と侵食されたもんだ」
少女の言葉に合わせて少年も口を開いたが、二人の言葉の意味を理解できないといったそぶりでレイモンドは首を傾げた。
そのことに気付いたラクセリアはクスクスと笑いをこぼした。
「どうする楓? この人にも見せてあげる?」
「好きにしろ」
話しの内容に楓と呼ばれた少年は興味がないのか、特に勿体振ることはなかった。
少女は静かに指を鳴らすと、音が反響して指元から景色が変わって行く。
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