3人が本棚に入れています
本棚に追加
これが侵食というものなのだろうか。
レイモンドの視界に広がる暗黒色の世界。
先程まで座っていた高級感溢れるソファーが、髑髏の装飾にいつの間にか変わっていた。
先程まで聞こえなかった人間のうめき声までが聞こえはじめ、部屋の壁には様々な生きた男女の顔が埋め込まれている。
その表情は苦悶や絶望といった様々なものだった。
あまりの気味の悪さに吐き気をもよおすレイモンドを横目に、少女が立ち上がり部屋の中をグルっと一周する。
「タブレットの力を使って魔界の住人を使役した結果ね」
自分と違い平然とした様子の少女に疑問を抱くも、今は自分の周りで何が起きているのかが気掛かりだった。
「安心しろ。俺達といる分にはあんたは安全だ。ラクセリア、彼に結界を」
先程まで学生服を着ていた少年は、漆黒の装束に身を包み、大きな鎌を右手に携えている。
鮮血色のローブをその上に羽織るその姿は、まるで伝記や小説に出てくる魔導師そのものだった。
「君達は一体?」
「彼はアカシックタブレットに選ばれた守護魔導師、私はアカシックタブレットの示す事象を監視と管理する大聖霊」
ラクセリアと呼ばれた少女はそう言って自らの背中から光る六枚の翼を出現させた。
ラクセリアが淡い光りを両の手の平から放つと、レイモンドの身体を光りが優しく包む。
それを確認した楓は大鎌を振りかざし空を切る。
次の瞬間、禍々しい部屋の景色が徐々に半透明に薄れていき、最終的には元の部屋の景色に戻っていた。
「侵食を断ち切った。しかし侵食の原因であるタブレットとその使い手をどうにかしないことには意味がない」
鋭い目つきでレイモンドを見る少年。
その鮮血色の瞳を見た時、背筋が凍りつく感覚を味わった。
「大丈夫よ。あのアンポンタンはいつもあんな感じで目つきが悪いだけだから」
最初のコメントを投稿しよう!