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トイレで用を済ませカーテンを開けると真夏の陽射しが狭い部屋を一瞬で駆け巡り、パンツ一丁の拓巳のひょろっとした体を照らした。眩しそうに目を細めながらもう一度ベッドに座りテーブルの上の卓上カレンダーを目にした。七月二十七日の欄に〈十時ネタ合わせ〉つまり今日の十時、しっかりとネタ合わせの予定が入っている。
拓巳の職業はお笑い芸人。芸人と言っても、お笑いの養成所を四年前に卒業したばかりで、月に何度か小さな劇場でネタ見せをする程度の、まだ素人に毛が生えた様なものだった。
先ほどの電話の相手は山口暁史で拓巳の相方だ。大学の同級生で卒業後に二人で養成所に入学してお笑いコンビ「アブシンス」を結成したのだ。
今日は明後日に控えたオーディション用のネタ合わせを十時から近くの公園でする事になっていた。
「さて、行くかな……」
拓巳は面倒くさそうに呟き、立ち上がろうとした時、テーブルの上に置かれている一冊の見覚えのないノートが目に入った。ノートの上には拓巳が持ち歩いている財布と部屋の鍵が付いた安っぽいキーケースが置いてある。
拓巳は不思議そうにノートを手にした。それは極普通の大学ノートだった。そして表紙をめくって中を見てみた。
一枚目のページから横書きで一行ずつ開けて、上から下まで殴り書きのような汚い字で何やら書いてあった。
拓巳はその文字に目を通した。
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