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三日目
三度目に行ったのは、それから二週間くらいたった、雨の日だった。
カラン。
いい音だ。係長の首が落ちるときは、きっとこんな音がすることだろう。
「いらっしゃい」
過不足のない言葉だ。いつものようにアメリカンを頼んでから、店内を伺う。
彼女はもはや、店のオブジェのように定位置にへばりついている。
ちなみに他の客は、三つ揃いできめて東スポを読んでいる中年男と、片方がやせていてもう一人が体格のいい、漫才コンビのような女子高生二人組だ。(おれは前者を「ひなぎく」、後者を「ラフレシア」と名づけた)
コーヒーが来たので、席を移動する。
今日は最初来たときの席に座った。
「しばらくだね」
「…そうね…」
相変わらず仰角四十五度。
今日も横顔に話さなきゃならない。
「どうしてた?」
「…べつに…」
おれは前から思っていたことを聞いてみた。
「なんで、いつもここにいるんだ?」
考えてみれば、最初から聞きたかったのはこれだけだったかもしれない。
「何か理由があるのか?」
おれは彼女の答えを知っているような気がした。
「あなたを待ってるからに決まってるじゃない」
振り向いた彼女の笑顔。
ああ、そうだった。
君はおれを待っていたんだね。
その後、おれはその喫茶店には行っていない。雨の日も折り畳み傘を持たされるようになったからだ。
一流も、悪くない。
END
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