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二日目
翌日、おれはリターンマッチをするつもりで意気込んで出社したが、あいにくと一日中デスクワークをやらされ外出する暇がなかった。
おまけに係長に飲みに誘われ、嫌いなビールと、うだつのあがらないあほ面に付き合わされた。三流な一日だ。
次の日も、その次の日も例の喫茶店に行こうとする度に何がしかの雑務が生じ、結局そこに行けたのは偶然にもまた雨の日だった。
カラン。
何度聞いてもいいものはいい。
「いらっしゃい」
髭のマスターにこのあいだと同じようにアメリカンを頼んでから、おれは店内を見回した。
彼女は同じ席で、フランス人形になっていた。
その他には、十九世紀からその場に留まり続けているような老婦人と、前衛芸術を地で行く気さくな若者が一人いるだけだ。
おれはコーヒーが来ると、カップを持って席を移った。
この間とは反対の席に座る。
「また会ったね」
むろん三流。
「…こんにちは…」
相変わらず視線は窓の外だ。
「今日は何を見てるの?」
「…こないだと同じもの…」
またも彼女のペース。
「それはつまり、何も見ていないってこと?」
「…そうかもしれない…」
まったくこの女狐め。
「君にはそうかもしれないが、僕にとっては重要な問題だよ」
「…ごめんなさい。雨、見てたの…」
虚をつかれ、おれはたじろいだ。しかし、顔には出さない。
「そうか。雨のどこがいいんだ?」
「…全部があって、何もないところ…」
おれはあきらめてカウンターに引き上げた。
「雨、あがりましたね」
マスターの笑顔も同じだ。
おれは三流の苦笑を返して店を出た。
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