転界

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その動作から悪い感じは微塵も感じられず。 いったい何者だろう?ボクが一人でただ何もせず…脱出の為に壁を素手で壊す以外、結局は無駄に終わり。何もせずに過ごした為に現れた幻覚?…妄想の類いだろうか? しかしながら、人?と話すのは今のボクに取ってありがたい。 「ご丁寧にどうも」 軽く会釈し、反応を見る。 『随分と落ち着いていらっしゃいますね。普通は慌てるものですが…いやはや』 エルスと名乗った若い紳士はシルクハットを被りステッキをくるくると回し左手に持ちかえて右手をボクに差し出した。 ボクは右手と彼の顔を往復させておずおずとその手を握った。人の温かさが右手の皮膚を通して脳に伝わる。幻覚だとここまでリアルに感じられるほどボクはイカれたつもりは無い。 彼が人間かは定かではないが確かに存在する。 右手から伝わる温もり。それだけがボクが安心感に包まれるには充分だった。一人の時間が永遠に続くかと思っていた。差し出れた右手に安堵の息が漏れ、ボクは口を開く。 「そう…ですね でも何故か自分でも…上手く言えないけど妙に落ち着いていて」
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