第1章 少年と教師と…

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ルーグスの後に続き、マルセルクは洋館に足を踏み入れる。背後では独りでに扉が鈍い音を立てて閉じ、閂が嵌められる音が響く。 「    この年であれだけの術を行使出来るとは…流石はアルベルタ家の末裔    」 彼はマルセルクをテーブルとソファーが置かれただけの部屋に案内する。 「どうぞ掛けてください、今お茶の用意をしますね」 「ありがとう」 彼に一礼してからルーグスは部屋の奥へと姿を消す。 「   本当に十歳なのだろうか…   」 しばらくしてポットと、カップが二つ乗ったトレーを持ってルーグスが戻ってきた。 「何もありませんが、ゆっくりして行って下さい」 「そうさせてもらうよ」 しばし二人は紅茶を啜る。 「あの、僕は肝心な事を忘れていました…」 「何かな?」 「僕にはセントリウスへ行くだけの資金が無いと言う事を…」 カップをソーサーに置き、マルセルクはクスクスと笑う。 「?」 「それはどうかな?ダリアスさんは君の為に莫大な額の資金を貯蓄している…君には秘密でね…一生掛けても使い切れんよ」 「伯父さんが?知らなかった…」 「さぁ、資金の心配はなくなった…そうとなれば荷造りに取り掛かろう」 セントリウス高等術師養成学校、其がセントリウスの正式な名称。 選ばれし者だけが入学を許されるベルグランディの最高教育機関、多くの人々の憧れの的であり、其の名を知らない者ははいないといと言っても過言ではないだろう。 二人は着々と荷造りを進める。ルーグスは言うまでもないが、マルセルクはどこか楽しそうだ。 「懐かしいな、子供の頃を思い出すよ」 「先生もセントリウスの学生だったのですか?」 トランクにシャツを入れながらルーグスが問う。 「そうだよ、母校で教えを説く事に憧れてセントリウスで教師をすることに決めてだね…かれこれ四十年程経った。早いものだ、だがセントリウスは変わらない。まるであの場所には、時など存在しないかのようだ」 「素敵な学校ですね」 彼は心底そう思った。セントリウスはきっと素晴らしい所なのだろう… 支度を全て終わらせ、二人は洋館を後にする。最後に、マルセルクは洋館に保護術を施した…強力な。二人は夏の日差しを受け、朝の草原を只管歩き続ける。 道だ…随分と離れた場所に一本の道が何処までも続いていた。そして、其処に一台の馬車が止まっていた。
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