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「あれでセントリウスに向かう」
「馬車…」
「教頭先生様ぁああぁぁ!おっはようございまぁぁす!」
此方に向かって大袈裟なくらい手を振る男が一人見える。
「おはようリーグルードにパドマ、御苦労であった」
「お安い御用ですよ」
草臥れたスーツに使い込まれたシルクハットを被った縺れた灰色の髪に同じ色のめをした男、彼はリーグルードと言う名らしい。
そしてもう一人、彼と同じ格好をしたパドマと呼ばれた恐らく御者である縺れた長めの黒髪の男がいたが、髪で顔は見えなかった。
「教頭、そろそろ馬車を出しますぜ」
低い声でパドマが言う。
「ささ、どうぞお乗り下さいな」
リーグルードが促す。
驚いた、乗ってみると外から見るより車内が明らかに広かった。
「面白い魔術でしてねぇ、人が乗れば乗るほど中が広くなるんすよ、もちろん外見はそのまま」
「『空間仮装法』と言ってだね、興味深い魔術だろう?」
マルセルクが微笑む。
「はい!とても興味深いです。僕もこんな術は知りません」
馬車が動き出す。
「俺がかけたんだよ」
「本当ですか!?」
「そうともさ」
見掛けによらず、魔力と知識の持ち主のようだ。
「おっと、それは置いといて俺の事紹介してなかったな…名前はリーグルード・ソムリドル、んでもって馬車進ませてるあっちの無愛想なのがパドマ・セルーロ、宜しくっ」
人懐っこそうな笑みを浮かべてリーグルードがルーグスに手を差し出した。
「僕はルーグス・アルベルタと言います、宜しく」
彼はリーグルードの手を握り返し、握手をした。
「セントリウスから移動する際は彼等の馬車で移動するのだよ」
「そうなんですね」
「そうっすよ」
ルーグスは車窓を覗き込み、再び驚く。
この馬車は有り得ない速さで進んでいる…しかし車内はカタカタと小さく揺れる程度。
「この馬車を引いてる馬は珍しい馬でしてねぇ、ワイクエーナって言うかなり希少な品種なんすよ。
人の目に見えない速さで走るのさ!でもそれだと馬車がエライ事になるんで俺とパッド、あ、パドマの事な?で色々術かけて今の状態になった訳だ。面白いだろ?ルーグス」
「面白いと言うよりお二人の知識が凄いです。お二人もセントリウスで学んだのですか?」
「あぁ、いい学校だぞ」
二時間程して馬車は停車する。そう、いよいよ辿り着いたのだ…セントリウスに。だが、人の気配が無い。
「お疲れ様」
「お礼なんていりませんよ教頭先生様」
「朝飯前だぜ教頭…と言うよりソム、テメェは何もしてないだろ」
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