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「え……」と桔梗が声を漏らした。 かすかな、聴こえるかどうかわからないくらいの小さな声だった。
優月は続けて言葉を発する。
「妹が追いかけてくることを、迷惑だなんて思う姉なんていない。 姉っていうのは、いつだって妹のことを想ってるんだから」
諭すような、導くような、優しい言葉。 複雑な色のパレットは、その絵の具を水に溶かしたように薄まっていく。
「そうだと……嬉しい……です」と、桔梗は恥ずかしそうに答えた。 まだ小さな声のままだ。
優月の言う通り、妹のことを邪険に扱う姉などいない。 姉を慕う妹を嫌う理由があるはず無い。
――アイツのことなんて、想ってない……!!
「え――?」
今、優月には桔梗が何か言った気がした。
「……? あの……どうか、しましたか……?」
「……秋篠さん、今何か言った?」
「いえ……?」
「そう……」
今のは気のせい?
いや違う。 確かに聴こえた。 “アイツのことなんて、想ってない……!!”という、強い怨念めいた声――。
チラリと奏多の方を見てみると、奏多も気づいているのか、難しい表情をしている。 やはり、さっきのは空耳ではなかったのか?
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