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だから、殺した。
そんな気がなかったとしても、結果的にそうなった。
どこかで、望んでいたんだ。
おれは確かにあいつになりたかった。
あいつのまだ温かい血を、擦り減った靴底に感じながら、今自分自身ともいえるあいつを見つめて、おれが殺したかったのは自分の心だった事に……。
そう、気がついて。
雨が降り注ぐ。
あいつの残した命の残像に。
アスファルトは、血と雨と鈍い光を放つ街灯に照らされて銀色に染まっている。
一瞬、焦点の定まらないあいつと、視線があった。
その刹那、おれが今まで見た事もないような、幸せそうな表情で笑った、ように見えた。
何故かは解らないけど、おれもあいつに笑い返した。
たった何秒かだったけど、その時はじめておれ達は互いにわかり合えた。
そう、確信している。
遠くで女の悲鳴が聞こえた気もしたけど、おれ達にとってはどうでも良い事で、おれはあいつの傍に寄り添うように、ただ座っていた。
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