銀のアスファルト1

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いろいろ思って、いろんな事に理由を付けてるうちはどんなに相手が嫌いだろうと、憎んではいないんだと、その時気付いた。 憎しみがピークに達した瞬間、おれの頭の中は真っ白だった。 あいつを刺してやろうなんて思っていなかったのに……。 たまたま、あいつの姿を見かけた。 人通りの少ない路地。 残業を持ち帰っていたために、いつも会社で使っているペーパーナイフがわりの小ぶりの刃物が鞄に入っていた。 手に馴染んで使いやすかったのでつい持ち歩く事も多かったんだ。 不幸な偶然、なのかどうかは解らない。 会社の帰りにあいつを見かけた時、自分の中で理性が警告するのを、おれは確かに聞いた。 平気で人を裏切るヤツなんて、知らんぷりでやり過ごせって。 いつかしっぺ返しがあるもんだって。 でも、いつもの自分じゃない誰かが自分の中にいて勝手に動き出すのを止める事ができなかった。 どうしてなのか、答えられない。 多分、憎しみは人間の感情の中でも、一番純粋でまっすぐなものなのかも知れない。
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