銀のアスファルト1

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だからなのか…… おれはゆっくり、あいつの後をついていった。 雨が降っていて、襟首のあたりが気持ち悪く濡れていた。 いつもなら、雨に濡れたくらいでいらつく筈もないのに、どうしようもなく苛々していた。 原因はあいつ。 今日、部長に呼ばれて自主退社を勧告されたからだ。 あいつのミスをおれのせいだと勘違いしていた。 結構デカいミスで会社に与えた損害も小さくない。 だったら、事実を言ってやればいいだろって、思うかもしれない。 おれだって他のヤツだったら、そう忠告する。 だけど、だめなんだ。 おれは会社の為にこんなに頑張ってきたのに、そんなことも解らないのかって、変なプライドも手伝って。 自分が今まで何してたのか、情けなくなったりもして言葉が出てこなかった。 全部が全部、あいつのせいじゃないって思ってもいたしね。 ただ、あいつは黙ってただけ。 上司が重大な勘違いをしているって解った時に、あいつはただ黙って何も言わなかった。 おれが同じ立場なら、やっぱり何も言えなかったと思う。 企画だって、おれのを丸ごと盗んだんじゃない。 おれのちょっとしたアイデアから、到底おれなんかじゃ考えつかない、見事なものに仕上げていた。 解ってたんだ。 最初から。 おれはあいつには敵わないって……。
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